温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~

 スマホを取りだし、お母さんの番号を探す。
 結婚は秒読みかしらって、喜んでいたのに……ごめんね。

 すぐ繋がった通話に緊張する。
 黙っておくわけにはいかないし、私が行方不明になったりしたら、きっと心配するだろうし。

「すず? どうしたの」

 いつもと変わらない声を聞いて、枯れない涙が溢れてきた。

「まだ仕事の時間でしょ」
「……お母さん」

 スマホの向こうから、お母さんの穏やかな声とニュース番組の音がわずかに聞こえてくる。
 いつものリビングでニュースを見ながらお茶を飲んでいたのだろう。

「具合でも悪いの?」

 鼻をすすると「なにかあったの?」と気遣うように尋ねられた。
 ニュースの音が消え、お母さんが私に向き合い真剣な顔をするのが見えたようだった。

「あのね……少し、仕事、お休みもらってね……今、横浜にいないの」
「横浜にいないって……佐伯さんと旅行って感じじゃないわよね?」

 もしかしたら、お母さんはなにかを察してくれたのかもしれない。

「あのね……隼人さんとは、別れようかと思って」