「布団を敷かせてもらってもいいかい?」
「そんな、ご迷惑をかけては」
「なにをいうんだい? 布団を敷くのも旅館の仕事だ」
「でも、お部屋代を……」

 自分で全部出したなら、そうなのだろうけど、いまいち客になりきれない私は言葉を濁した。

「じゃあ、一緒に敷くか」
「……え?」

 突然の提案にきょとんとしながらも、座敷横の棚を空ける一鷹さんを止める術もなく、いわれるがままに枕とシーツを受け取った。
 それから、手際のよい一鷹さんによって一人分の布団があっという間に敷かれてしまった。

「冷蔵庫にあるミネラルウォーターはサービス品だから遠慮せずに飲んでくれ。自販機や避難口は、ここに書いてある」

 旅館の見取り図らしきものを手渡され、クローゼットにある浴衣のサイズが合わなかったら、フロントで交換ができるからと教わった。

「困ったら、遠慮せずにフロントへ連絡してくれ」
「……ありがとうございます」
「夕食までは時間がある。湯につかるといい。後で花明りで会おう」

 ルームキーを私の手に握らせた一鷹さんは「ゆっくりおくつろぎください」といって部屋を出ていった。