もうひとつのバースデイ

 その人が、先生だったらいいのに。
 一瞬、そんなことを思ったが、すぐに打ち消した。
「恋愛以外で、もっと楽しいことを増やしたいです。まあ⋯⋯今まで、恋愛も楽しくなかったんですけど。あ、そういえば、さっき邪魔が入る前、何か仰ってましたよね?」
「うん。せっかくおめかししてることだし、ちょっと洒落たレストランにでも行かない?彼の代わりにはなれないけど、桐生さんの誕生日を祝いたいんだ」
「え?でも⋯⋯」
「僕も、週末だというのに何の予定もないから、むしろこちらがお願いしたいかな⋯⋯なんて」
 照れたように先生は言う。
「じゃあ、よろしくお願いします」
 ふと、この街の銀杏並木は、こんなに綺麗だったんだ⋯⋯と気付く。
 今まで、俯いてばかりで気付かなかったのだろう。
「やばい、遅れる!」
「地下鉄が遅延なんかするから⋯⋯」
 二人のOL風の若い女性が、私の横を通り過ぎる時に、そう言っていた。