もうひとつのバースデイ

 太田は、文庫本の表紙のをチラリと見て、
「北方謙三?それ、お前の本?」
「ううん、借りてるの」
「誰にだよ?女じゃないだろ」
 そういうところだけ、やけに目敏いのは如何なものか。
 もう一度ため息をつき、
「⋯⋯職場の人よ。今日はもう時間が過ぎたから、映画は無理ね」
「また今度でいいじゃん。俺、今月は金欠だし」
 金銭管理ができていないのは、いつものことである。
 そう思っても、もういちいち口にする気にもならない。
 しばらく、カフェの中で話をしていたが、最近はもう共通の話題すらなくなってきている。
 そう感じているのは私だけではないようで、太田は、私と話している間もずっと、スマホを弄ってばかりだ。
「今日は、もうこれで解散にする?」
 私が切り出すと、
「え、もう?飯ぐらい食って帰ろうぜ。ちょっと飲みたいし」
 そう言うので、早めの時間帯に居酒屋へ行くことになった。