もうひとつのバースデイ

 思いがけない声に、私はゆっくりと振り向いた。
「高崎先生⋯⋯」
 声の主は、太田ではなく、先生だった。
「どうしてご存知なんですか?」
「ええと⋯⋯前に何かの書類に生年月日を書いていたのを、たまたま覚えてて。ところで、どうしたの?まさか、今日もすっぽかされた⋯⋯?」
 小さく頷く。
「でも、もういいんです。先生が仰っていたように、完全に舐められて、全く愛されてなどいないこともよくわかりました。ひとりになるのは確かに怖いですけど、もう彼とはこれで完全に終わりにします」
「勇気の要る決断だったね。よくやったよ」
「先生のお陰です。いつか、決着をつけなければとは思ってましたから」
 そう言うと、先生はすまなそうに、
「お陰だなんて⋯⋯なんだか申し訳ない。別れを促したみたいで⋯⋯」
「いいんです。私、失恋の瞬間ぐらい、少しは綺麗でいたかったのかな」
 誰に見せる為でもなく、あくまで自分のために。