花は夜に咲く

男の指が頬に触れた瞬間――


カンッ、と鋭い金属音が夜を裂いた。


男の動きが止まる。


その一瞬の隙に、空気が変わった。


風が流れ込んできて、私の前に“誰か”の影が立つ。


視界が暗転する。


けれど、その背中だけは、はっきり見えた。


黒いスーツ。


冷たい夜の中で、確かに光をまとっていた。