夜の街は、まるで別の世界みたいだった。


ネオンの光が雨上がりのアスファルトに反射して、滲んだ色が足元を染めていく。


人の笑い声、タクシーのクラクション、
グラスがぶつかる音。


どれも聞き慣れたはずなのに、今日は、どこか違って聞こえた。


「お疲れさまです、スミさん」


クラブの扉を開けると、スタッフの声が迎えてくれた。


私はいつものように微笑みを返す。


ドレスの裾を整え、鏡の前でリップを引く。


完璧な笑顔。


これが、夜の私。


だけど今夜は、鏡の中の笑顔が少しだけ震えて見えた。


背中の奥に、誰かの視線が刺さっているような気がする。


扉の向こうで、車のエンジン音が一瞬だけ鳴った。


その低い音が、妙に耳に残った。


「……気のせい」


自分に言い聞かせて、もう一度、笑顔を作った。


その笑顔の裏で、胸の奥がひどく冷たかった。