「今回は、月9で主演を務めるこのお二人にインタビューしていきたいと思います！マナトさんと佐藤さえさんです。よろしくお願いします！」
「よろしくお願いします。」

明るい照明の下、私は完璧な笑顔を浮かべた。
でも心の中は――ぐるぐる。

（近い、推しが近い。距離1.2メートル。尊い。けど顔には出すな、絶対出すな佐藤さえ！）

司会者の声が響く。
「今回は“初恋”がテーマの恋愛ドラマということですが、お二人の初恋エピソードをお聞かせください。」

マナトくんは少し照れたように笑って答えた。
「そうですね。僕は……幼稚園の先生ですかね。」

（はい、王道。ファンの期待を裏切らない、安定の“先生オチ”。推し、今日も完璧です。）

司会者は引かない。
「またまたマナトさん。もう少し最近の話を聞きたいなぁ。」

（やめてぇぇぇ！分かってない！この人、分かってない！！）

マナトくんは微笑みを崩さず、穏やかに言った。
「本当の意味で恋に落ちた瞬間でいうと、ファンの皆さんと出会った瞬間ですね。」

（はい、出ました。100点満点。満場一致の模範解答。推し、神対応の権化です。）

インタビューが終わり、写真撮影へ。マナトくんが肩を寄せる。カメラのフラッシュが瞬く。
（マナト推しの皆様、安心してください。この距離感、仕事です。撮影終わったら一言も喋らず帰りますから。）

「それではお疲れ様です。」
本当に、彼は一言もなく去っていった。

スマホに映るSNSのコメント欄には――
「この女誰？距離近すぎ」「絶対付き合ってる」
（……はぁ？なんで私だけ叩かれてるの？マナトくんは無傷なのに。まぢで理不尽。）

イライラしながら、丸めた台本で太ももを叩く。
「お、今日も荒れてんね。」

声をかけてきたのは、Planetのらいとくん。
「ら、らいとくん……。」
「マナトと仲良くなれてないんだ？」
「うるさい。」
「図星じゃん。」

彼はニヤリと笑って、私の前にしゃがみこんだ。
「そんなさえちゃんに、とっておきの情報教えてあげる。」
「え、なに？」
「マナトが唯一、女性と話す話題がある。それは――何でしょう？」

「美容？」「ブー。」
「音楽？」「ブー。」
「ペット？」「全然違う。」
「じゃあ何なの？」

らいとくんは私の目をまっすぐ見た。
「俺たちのグループのコンセプトは？」

（……惑星。）

「惑星の話か！」
「正解。マナト、惑星オタクなんだよ。だから、惑星の話ができる女性とはつい話しちゃうんだ。」

「でも私、惑星詳しくないよ？」
「勉強しなよ。ヒントは出したから。頑張れ、ヲタクヒロイン。」

そう言って立ち去る彼の背中を見ながら、私は小さく呟いた。
「……なんであの人、こんなに協力的なんだろ。」

そして思う。
次の撮影までに――惑星、全部覚えよう。
推しに、話しかけてもらうために。