終電を逃したベンチで、僕は先輩に恋をした

第三章:午前0時43分、僕だけの秘密の時間
ベンチの上で、先輩は酔いと疲れからか、ふいに沈黙した。瞳を閉じ、いつもの完璧な姿勢が崩れ、微かに身体を揺らしている。
「…私、ダメね。ちょっと、眠くなっちゃった」
そして、時計の針が午前0時43分を指した時。
先輩は、急に頭の重さに耐えきれなくなったように、フッと力を抜き、僕の右肩に頭を乗せてきた。
コトリ。
その僅かな衝撃と、先輩の吐息の温かさが、僕の全身に電流のように走った。
僕は、動けない。僕は、呼吸を止めて、僕だけの特権を享受した。
(心の声)
誰も見ていない。この高嶺の花の、最も無防備で、最も柔らかい部分を、僕だけが知っている。この密着が、僕の憧れを、強烈な恋へと変えた。彼女の頭の重み、体温、香り。これら全てが、彼女が作り上げた「完璧な橘遥」の虚像を打ち砕く。
僕はそっと、先輩の寝顔を覗き込んだ。
街灯の光の下で、彼女の美しい顔は穏やかで、まるで無垢な子供のようだった。その顔には、仕事の緻密さも、計算された配慮も、何一つなかった。ただ、**「可愛い」**という、純粋で強烈な感情だけが、僕の胸を突き破った。
この5分間の密着。僕の人生の運命が、静かに、そして確実に、**「橘遥を愛する人生」**へと書き換えられていく。