「お手伝いさんって佐藤さん? 鈴木さんだっけ? その薔薇いらないからあげるわ」

 むせかえるような薔薇の匂いが嫌いだ。
 玲さんは私に好きな花を尋ねてくれたこともない。
 『とりあえずの薔薇』をプレゼントしてくる彼は、そもそも自分で花束を注文しているかも怪しい。

「斉藤です。あの⋯⋯本当に宜しいのですか? 1本350円以上はしそうな薔薇なのに」
 斉藤さんは嬉しそうに目を輝かせ、艶々に輝く真紅の薔薇の美しさに見惚れている。
 花を貰って嬉しいという感情が私にはないし、花を美しいと思う感性もない。
 それならば、この花に価値を感じる斉藤さんが貰った方が良いだろう。