「パティシエ根本のデザートね。直ぐに用意するよ」

 穏やかに微笑むような表情を見せながら、玲さんが柔らかな声で囁く。
 何でも言うことを聞いてくれる理想的な婚約者だ。

 一目惚れして玲さんに初恋のような感情を抱いたはずなのに、私の心はどんどん彼から離れて行った。

 それは、彼のせいだけではない。
 私の家庭も彼と婚約した後、不幸が続いた。
 それゆえに私の心はいつも不安定になった。

 彼と婚約した半年後には父の不倫が発覚した。