あなたと私を繋ぐ5分

「おはよう」

 大通りに出る手前の曲がり角に、鷺沼が立っていた。
 美咲は大きく目を見開く。

「お、おはようございます……」

 消え入りそうな声でそう呟き、横を通り過ぎようとしたけれど、鷺沼は当然のように美咲の隣に並んで歩き出した。

「昨日、聞いた?」

 簡潔にそう訊ねられ、美咲は弾かれたように鷺沼を見上げた。

 鷺沼は真っ直ぐに前を見つめていたけれど、向けられる目線に気づいたのか、足を止めてゆっくりと美咲を見下ろした。
 つられて美咲も立ち止まる。

「……そういうことだから」

 戸惑い返事に窮していると、鷺沼は腰を屈めて美咲と視線を合わせた。

 喉の奥から息が漏れて、ひゅっと鳴った。
 唇が震えて上手く言葉を紡げずにいると、鷺沼が短く息を吐いた。

「返事は、いつか聞かせてもらえると嬉しい」

 痛いくらい強く見つめたかと思うと、鷺沼はふっと微笑んだ。

 じゃあ、と言って足早に去っていこうとする背に「鷺沼課長!」と慌てて声をかける。
 ぴたりと足を止めた鷺沼を追いかけ、美咲はその前にまわりこんだ。

 どきどきと鳴る心臓の鼓動が聞こえる。震える指先を叱咤するように強く握った。

「私は、あなたの考え方が好きです。あなたのおかげで、私の毎日が変わりました。だから……ずっと前からあなたと言う人が好きです。顔を、正体を知る前から、あなたの言葉に惹かれていました。だから、私からも言わせてください」

 大きく息を吸う。

「好きです」

 短く言い切ると、鷺沼の瞳が大きく見開かれた。そうして自らの手で顔を覆ってしまう。

「鷺沼課長……?」
「ごめん。こんなに……幸せなことって、この世にあるんだ、と思って」

 真っ直ぐに美咲を見つめる鷺沼の目元が、赤く染まっている。

「毎日こんなに幸せな気持ちにしてくれるなんて。やっぱり君のことが、好きだ」

 何度も何度も聞いた声が耳を打つ。瞼の裏がじんわりと熱くなっていくのを感じていると、鷺沼が両手を差し出す。
 美咲は躊躇わず、その腕のなかに飛び込んだ。
 ああこれこそが幸せだ、と実感しながら。