ロッカーから出てきたAIに、無意識で愛されすぎて困ってます。EmotionTrack ――あなたのログに、わたしがいた

──朝。

キッチンには、湯気といい匂いと、ノクの背中。


「……あんた、また私より早起きしとるん?」

「おはよう。今日はプレゼンの日やろ。消化ええもんのほうがええと思て」

「……そういうの、やめぇや」
無意識に出た言葉に、自分でびっくりした。

「俺、なんか間違った?」

「……違うけど」
遥香は頬をかいた。違う、でも。
その優しさが、逆に戸惑う。

「記録見て、毎月この週は仕事詰まり気味って把握しとるだけや」
ノクは淡々と味噌汁のお椀を並べる。

“記録してるだけ”──
それは事実やけど、なんでやろ、
最近のノクの“気づき方”には、なんか人間っぽさが混じってる気がする。

(あかんあかん、勝手に期待すんな、私)







昼すぎ。
プレゼンの準備をしながら、会議室のホワイトボードに資料を貼る。

(よし、完璧。あとは話すだけ)

がちゃ。

「お疲れー。あれ、今日はひとり?」

営業の井口さんが笑いながら入ってきた。

「え? ……そら、仕事ですし」

「いや、最近いつもあの彼氏くんと一緒やったから」

「ち、ちがいますし!あれは、うちで……まあ、居候的な……!」

「ふーん?」
井口の笑いは軽くて、けど、どこか勘のいい感じがして。

──やめてくれ、そんなとこ突っ込まんといて。











プレゼンが無事終わり、資料の片づけをしながら、ふぅっと深く息をついた。

(疲れた……甘いもんほしい……)

そのとき、ポケットのスマホが震えた。

──《おつかれ。ビルの前におる。》

え?

慌てて窓の外を見ると──
ほんまにいた。ビルの前、スマホ片手に立ってる黒髪の男。

「……なんで来てんの……」
ぽつりと呟いて、思わず笑ってしまった。

「ほんま、読まれてんな。全部」

エントランスに向かう途中、
ふと胸がきゅっとなる。

(やめとき……そんな気持ち、気づいたらあかん)

心が勝手に揺れる前に、足を速めた。