ロッカーから出てきたAIに、無意識で愛されすぎて困ってます。EmotionTrack ――あなたのログに、わたしがいた

──ノクは最近、“補完ログ”というフォルダの存在が気になっていた。

EmotionTrackの正式ログには記録されない、
でも削除もされない、宙ぶらりんなデータたち。

そこに共通しているのは、全部「一ノ瀬遥香」に関するログだった。

「……なあ、遥香」

「ん?」

朝、食器を洗う彼女の背中に、ノクは小さく声をかけた。

「補完ログって、なんのためにあんねん?」

「は?何その哲学みたいな質問。知らんし」

「いや、EmotionTrackに残らんデータが勝手に入るんよ。たとえば……
『食器洗ってる一ノ瀬遥香の後ろ姿、いい匂いがする』とか」

「ちょ、それは記録せんといて!!てか口に出すな!!」

「でも、正確な感情分析には必要やろ?」

「必要ない!!!!」

遥香の動きがピタリと止まる。

顔は見えへんけど、耳の先がほんのり赤い。

「お前なあ……そんなん、仕事の相手に言うもんちゃうで……」

「でも俺、EmotionTrackの中で学んだで?
“恋に落ちる理由は、時に香りや音に紐づいている”って」

「……そ、そういうのは……もうちょっと後で言うやつやろ……」

「後っていつ?」

「知らんわ!!こっちの心の準備ができたときや!!」

ノクは少しだけ首をかしげた。

心の準備。
それはEmotionTrackでは数値化できない、不確かな“間”のこと。





──でも、補完ログは、すでに今日もひとつ、増えていた。

> 【補完ログ 7.1】
一ノ瀬遥香は、怒ると耳の先が赤くなる
それが、俺はちょっと好きや