バレちゃいけない、イケメン俳優と私の秘蜜婚

 高一の文化祭。
 演劇部の劇を見て、とある演者に心臓を射抜かれた。
 役柄はただ、ヒロインとヒーローの傍を歩く通行人だったけれど。劇の流れを邪魔をしない存在感が妙に気になる人だった。パンフレットを見て、『児玉響也』という名前と三年だということを、心に刻んだ。

 その次に先輩を見かけることができたのは卒業式。


 高三の受験前。
 見学に行った先の大学で演劇部のチラシをもらった。
 久しぶりに見つけた児玉響也の名前に胸が躍る。
 劇を見に行って『一生、彼を推す』ことを誓った。

 私は演劇部に突撃して、押しかけマネージャーとなり、SNSやコピー本で演劇部と児玉響也を宣伝しまくった。

 五年前。
 私はリモートワークをしながら、相変わらず児玉響也が出るときけば、どんな役でもどこの舞台でも見に行っていた。
 私設ファンクラブを立ち上げ、全国の響也ファンと熱い想いを共有していた。

 二人でご飯を食べているときに、彼から『恋人になってほしい』と告白された。
 推しだったから悩みまくる。
 私にとって推しとは、舞台のこちらとあちらで別世界の住人だったからだ。けれど、彼は何度も私をデートに誘い、『演技していない彼』を見せてくれた。
 ……おかしい。
 演技をしていない彼に興味なかったはずなのに、どんどん彼の『中の人』に惹かれていく。

 推しと恋愛の境界線があやふやになったとき。
『演じることに魂を奪われてる。けど、冴ちゃんの前だと俺は一人の男に戻れる』と告げてくれて、私は公私ともに彼を支えようと思った。支える、っておこがましいな。公私にかかわらず、傍にいたかっただけ。

 二年十一か月前。
 彼にプロポーズされ、婚姻届を提出しに行った。たまたま同じ区役所に、用事があった映画監督が居合わせる。彼はスカウトされ、監督はその場で私設ファンクラブに入会してくれた。また、監督のツテで響也さんは大手事務所に入ることになった。
 しかし、彼付きとなったマネージャーや映画監督はスター候補の結婚に大反対。

『別れてほしい』と、私に土下座してきたマネージャー。
 そうだよね、と婚姻の取り消しを家庭裁判所に請求しようとする私。

『冴と別れるくらいなら、有名にならなくていい』と宣言して、婚姻取り消しを拒む彼。
 推しである彼に、色々な役を楽しんでほしい私。

 かくして監督と事務所の社長から出された条件が【三年間、二人が夫婦とバレなければ二人の仲を公表してもいい】だった。

 一緒にいても大丈夫なよう、私は彼の付き人となり。
 事務所が用意した合宿所に住まわせてもらうことになった。