焦がれる吐息






…———冴え冴えしく太陽が輝いている、猛暑日。

昼間なのに黄昏のように薄暗い4畳半の一室。

壊れかけたエアコンからは生温い風しかでない。でも、足先も指先もずっと、死んだように冷たく何も感じない。暑さも、不快感も何も感じない。

部屋の面積を殆ど占めているベットの上、眠るわけでもなく、ただ只管に目を瞑る。

光が殆ど差したことのない出窓からは、絶えず賑やかな声が聞こえていた。

……ヴーヴー…

どれくらい時間が過ぎただろうか、古びた室外機の音に紛れてバイブ音が繰り返されているのに気づく。

手探りで握り締めたスマホを、顔を覆っていた片腕の隙間から見る。

【着信 三輪健二】

画面を目にしてすぐ、それを放り投げる。

また顔を覆うその一瞬、赤くザラついた手の甲が視界に入った。

でも、痛くも痒くもない。何の感覚もない。

仕事を不当に解雇されても、どうでもいい。

施設が閉鎖されようが、再建されようがなんだっていい。

どんなに有名な芸能事務所のお偉いさんに声を掛けられても、大金を積まれても、気持ちが湧いてこない。

記憶がある時からもうずっと、感情というものが芽生えてこなかった。

唯一自分に残されていたものは、名前と、そして女に対する異常な拒否反応。

一番古い記憶は、この部屋にやって来たばかりの頃。施設の女性職員に話しかけられてすぐ、トイレに駆け込み嘔吐を繰り返していた事は薄っすらと覚えている。


あとは何も分からない。

何者なのか、それは自分が一番分からなかった。

でも、知ろうとも思わない。

何かになりたいとも思わない。

生きているか死んでいるかと問われたら、後者を選んだほうが正しいような、そんな虚ろな時間を延々と彷徨っていた。

独りきりの薄暗い部屋
施設の調理場
徒歩三分のコンビニ

世界はそれだけ。

死ぬまでそれでいいと思っていた。

寧ろ、今すぐ消えてもいいと思ってた。