焦がれる吐息






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『誰、うちのケンジの悪口言ってるの』





緑葉の隙間から零れる夏の光が、小雨のように点々と降り注ぐ桜の木の下。

しっとりとした艶やかな声に、騒がしい園庭が水を打ったように静まり返った。

若葉風にさらりと髪を靡かせながら現れたのは、すらりとした颯爽たる姿。

雪のような冷たさを連想させる真っ白な肌。

美しい容姿から溢れるような艶めかしさ。

二重瞼の妖艶な下三白眼が、浅はかな子供達を気怠そうに見据える。


『オネーサンが道徳の授業でもしてあげようか』


退屈な世界を翻すように、艶々しい濃紺の髪がふわりと舞った。花びらのような朱色の唇は美しく弧を描き、冷ややかな笑みが浮かぶ。


凛と煌めくその姿を目にした瞬間、空気が、世界が一気に色づいた。

堕ちてゆくような音が、トクントクンと、胸のあたりで少しずつ鳴り始める。

嗚呼、自分にもちゃんと心臓があるのだと、間抜けな思いが淡く心を掠めた。

生まれて初めてだった、自分の鼓動を感じたのは。

そして、自分の瞳に映すことができたのも彼女が初めてだった。