焦がれる吐息




「大丈夫?具合でも悪い?」


男に顔をのぞきこまれ、百瀬くんを見つめていた視界は遮られる。でも、彼が探してくれてるって分かったら手の震えは止まっていた。


「私、高級時計つけてる腕よりも、絆創膏つけた手のほうが好きなんです」

「へ?」

「失礼します」


ぽかん、と間抜け面になった男の手に、珈琲ふたつを押しつけて素早く身を翻した。

彼の方へと進めば、その姿が振り向く。

青い瞳は、ひとつも迷う事なく私を捉えた。

瞬間、「すみません」と頭を下げ、人混みをかき分けて駆け寄ってきてくれる百瀬くん。余裕のないその姿に、心が震えてしまう。


「澄香さんっ…よかった……」

「百瀬くん、」

「全然来ないから焦りました…あーもうっ……」


私の元へときた百瀬くんは、前髪を掻き上げながらうなじを垂れ、深い溜め息を吐いた。

心底安堵しているその様子は、今までで一番、素を感じて。そんな彼を前に、不透明な感情が迫り上がってくるから堪えるように下唇を噛み締めた。

謎だらけで掴めないくせに、こんな時に分かりやすいの、狡いよもう。


「……すみません、珈琲飲みたくなって」

「……」

「な、んですか?」

「何かありました?」


まじまじと見つめてくる青い瞳に首を傾げれば、百瀬くんも一緒に首を傾げてくる。

その眼差しは、真剣そのものだ。


「…いや別に。それより大袈裟じゃないですか?子供じゃあるまいし」


我ながら可愛くない照れ隠し。咄嗟にツンとした態度をとってしまえば、桜色の唇は呆れたようにふっと緩む。

そして、キャスケットの鍔がくいっと下げられた。

「———少しは自覚してくれません?」


遮られた視界、聞こえてきたのはいつもよりちょっぴり強い口調だった。