焦がれる吐息






「(ショッピングモールに入ってたの知らなかった…)」



人混みを縫って少し近づいてみれば、店前に開店祝いの花が並んでいるのを発見。

どうやら、オープンしたばかりのよう。


「どうぞ〜コナコーヒーでーす!お試しに良かったら〜」


店前では、高らかな声を張る女性の店員さん。小さな紙コップをのせたトレー片手に、通行人に声掛けしていた。

それを耳にした私は、懐かしい響きに更に胸を躍らせる。去年の末にケンちゃんとハワイ旅行したとき以来のコナコーヒー。普段飲むことがないからこそ、そそられる。

そういえば今朝、珈琲飲み損ねたんだっけ……と思い出してしまえば余計に恋しくなって。

食後の煙草と珈琲、最高の組み合わせだな……なんて自分を煽ってしまったら、足はトコトコと誘惑に負けてしまった。

「あ、良かったら飲んでみませんか〜?」

近づいてすぐに、店員さんはにこやかに紙コップを差し出してくれる。それに簡単に頷いて、迷わず受け取った。

独特の芳香に、自然と心がほっとする。


「ありがとうございます…!カウンター席空いてるので、良かったら店内でいかがですか?パンケーキもおすすめですよ〜」

「あー今はちょっと。すみません。」

「では宜しければ、次回から使えるクーポン券どうぞ〜!」


清々しい店員さんから、流れるように差し出されたのはお洒落なリーフレットだった。それを興味津々で受け取った私は、軽く会釈をしてそそくさと踵を返す。

珈琲片手に、るんるんしながら喫煙所に戻ろうとして。でも直ぐに、軽快な足取りを止めた。

黒い液体をじっと見つめて、麗しい顔を頭に咲かせてみる。


「……あの、すみません」


おずおずと店員さんの元へと戻った私は、恥を忍んで声を掛けた。

好きか嫌いか、飲めるかさえも実際のところは分からないけれど。

『ありがとうございます』って、嬉しそうに笑ってくれる百瀬くんが簡単に想像できてしまって、


「もう一杯、頂いてもいいですか…?」

図々しいのは承知でお願いしてしまった。

一瞬目を丸くした店員さんは「もちろんです!!お連れ様とご来店お待ちしてます〜!」と、すぐに弾ける笑顔でもう一杯くれる。


「ありがとうございます」


ふたつの珈琲を手に、思わず頬が緩む。


「(百瀬くん、珈琲好きだといいな……)」



———「珈琲、お好きなんですか?」


それは、うずうずとした気持ちを抱えて数歩進んだときだった。

何の前触れもなく。至近距離で聞こえてきた軽薄な声、ほぼ同時に、肩越しからぬっと覗き込んできた顔。

瞬間的に息を止め、表情を殺す。

瞳だけを動かせば、全く知らない男が世慣れた笑みを浮かべていた。