「澄香さん、これが食べたかったんですか?」
「……いや、というよりも、ここに来たかったっていうのが本音です」
キッチンカーからすぐそば、数本の銀杏の木に囲まれた小さな広場。ベンチが二つだけ置いてあるこの場所は、来るたび誰一人いない、静かな穴場だった。
従業員は室内の休憩スペースを利用するし、お客様も裏口だから気づかないのかもしれない。
セール期間で頻繁にヘルプに駆り出されていた頃、バーガー片手に辿り着いて。一人が好きな私は、よくここで休憩していたのだ。
「正直、私、人混み苦手で。静かな場所に行きたいなって……あ、この場所は絶対に秘密で。」
慌てて人差し指を口元に立て、ぐっと顔を引き締めた。
私のとっておきの場所。またヘルプに来ることもあるだろうからちゃんと口止めしなくては、と。
こちらは至って真剣だったのに。
百瀬くんはひとつ、ふたつ瞬きを繰り返した後、途端にふっと吹き出して口元を手で抑えた。
不意打ちに、鼓動が跳ねる。
隠しきれていない、くしゃ、とした笑みが、やっぱり私の心ど真ん中にキュンと矢を射った。
百瀬くんが笑ってくれる度、頬も、胸の奥底も、どうしてか熱くなってしまう。
とはいえ、いま笑われたのは癪に触る。
「なんで笑うんですか」
結構、私にとっては大事なことなのに。休憩室は従業員の男達が沢山いるから、ここは私の憩いの場なのだ。
キッと目を鋭くさせる私に対して、百瀬くんは「いや、ただ、」とゆっくり手を下ろして、
「ほんと、澄香さんって底無しだなって」
まるで大切そうに、私を優しく瞳に閉じ込める。
突として、空気が甘くまろやかになった気がした。
木漏れ日が差し込む瞳は、穏やかな光が散らばって宝石のように酷く美しい。
相変わらず理解できないのに、ドキドキと鼓動がうるさくて嫌になってしまう。
「……どういう意味ですか」
不審に眉を寄せて、何とか鼓動を落ち着かせようとした。
それなのに百瀬くんは、とことん狡かった。
私を真似るように、そっと、美しい唇に人差し指を立てると。
「まだ、秘密です」
やさしさと色気を匂わせて、緩やかに口角をもちあげた。



