ランチはとっくに過ぎている時間帯、それでもティータイムに差し掛かるタイミングだからか特に女性客で混み合っていた。
その中で、すぐに目を奪われる。
少し離れた隅のベンチに座っている彼に、遠目からでも自然と惹きつけられてしまう。
「ねえ、声掛けてみる?」
「え〜誰か待ってるんじゃない?」
それは私だけではなく、周囲の人も同じで。
通りすがった女性二人組が、百瀬くんの方へと何度も振り返りながら密やかに盛り上がっていた。
そんな百瀬くんは、ポッケに手を突っ込んで。周囲からの熱視線を遮断するように、じっと足元を見つめていた。
マンション前にいたときと同じようで、まるきり違う。まるで彼だけが、静かな別世界にいるようだった。
「百瀬くん」
半径二メートル手前。
そっと名前を呼んでみれば、侘しい睫毛がゆっくりとあがる。
瞳と瞳が、静かに重なり合う。
瞬間、無表情だった彼は、息を吹き返したようにゆったりと桜色のくちびるを小さく綻ばせた。
その表情に不覚にもときめいて、妙に安堵してしまう自分がいた。
「すみません、待たせてしまって」
もう少し距離を詰めれば「いや、俺のほうこそ」と何故か申し訳なさそうにするから、きょとんと目が瞬く。
「……感じ悪くて、すみません」
しゅんと睫毛はしなり、ゆっくり振れる青い瞳。
不器用で、とても儚げな表情だった。
もしかしたらこの人は、優しいからこそきっと。
私が想像もつかないほどに、不躾な眼差しに溢れたこの世界に苦悩してきたのかもしれない。
「あの、」
しっとりとした雰囲気が漂う彼に、気づいた時にはもう、柔らかな声を掛けていた。
「食べたいものあるんですけど、少し移動していいですか?」
うっかり唇を綻ばせて首を傾げれば、百瀬くんは驚いたように青い瞳を丸くする。
そうして、眩しそうに柔く目を細めて、静かにひとつ頷いた。
さっきの空虚な瞳が幻だったようで。
穏やかに、青色が艶々と揺れている。
私だけしか映らないその瞳を前に、新芽の疑問がまた心を締め付けた。



