焦がれる吐息




きゃぴっ、なんて効果音がつきそうな尾崎は、百瀬くんの目の前へと可憐に立った。気のせいか、ハートがふわんと舞っているようにも見える。

さすがケンちゃんと波長が合う女。弾丸のようなハイテンションに、毎度の如くついていけない。

出遅れた一歩後ろで、ひやっと肝が縮んだ。

可愛らしくも軽薄な唇からは、絶対に余計な事しか出てこないのが容易に想像つくから。
 

急に騒がしくなって百瀬くんにも申し訳ないな、と。眉を八の字に見上げてみてすぐ、ひゅんっと心臓がひっくり返る。


すうっ…と、長い睫毛を静かに落とす百瀬くん。

微かな陰翳がかかるその美しい顔は、感情が削ぎ落とされたかのように、無、だった。

たった今、優しさしか感じられなかったのに。

温かみも冷たさも何も感じない。ただ、俯くその姿勢が、目の前の尾崎を拒絶しているように見えた。

それでも尾崎は気づいていないのか、目の前の美貌に目が眩んでいるのか。ぱあっと、高らかに可愛い声を咲かせる。


「あたしはバイト先の後輩でっ、おざ」


———「澄香さん、」


それは、あからさまだった。妙に落ち着いたトーンが、ピン、と見えない線を引く。


「向こうで待ってます」


もう既に身体の向きをかえた百瀬くんは、ぺこ、と浅い会釈だけをして少し離れたベンチの方へと行ってしまう。青い瞳には、一瞬たりとも尾崎の姿は映されなかった。


「……え、?え?」と困惑を漏らす尾崎の傍で。

どんどん離れてゆくその背中を見つめながら、ケンちゃんの言葉を脳裏に浮かべた。

そして、今まで渦巻いていた疑問を一つ解く。

百瀬くんは、やっぱり女が苦手だったのだと。