焦がれる吐息





「……変ではないんですけど。もう少し深く被った方がいいと思います」

「深く?こうですか?」

「いや、もっと」

「このくらい?」

「ん、もっと」

「こう??」

「違う、もっと」




「……いや見えないんですけど、前」



言われるがまま鍔を下げ続けた結果、視界は真っ暗になってしまった。ぐいっと鍔を上げ直して非難めいた眼差しをムッと向けた先で、百瀬くんもまたムッとしている。



「………見られたくないんだから仕方ないじゃないですか」



そして、そっぽ向いて頸を掻きながら、ぼそぼそと何かを言う。


そんな彼に訝しげに首を捻りながら乗り込んだエレベーターの中では、戸惑う暇もなく「奥へ」と透かさずすみっこの角に追いやられてしまう。

乗り込む他の人達と私の間で、まるで壁を作るように目の前に立つ彼の大きな背中は、コツンと鍔が当たってしまうほど至近距離にある。



彼の行動に一割も理解できない中。

煙草と柔軟剤が混じり合う誘惑的な香りを強く感じて、頬が熱くなってしまうから余計にムッと眉を顰めた。