焦がれる吐息





———「それ、被り方合ってますか?」




たぶん、いや確実に。

人生で一番、服に悩んだと思う。単なる買い物だけれど、私にとっては一大事。だって、初めて男性と肩を並べて歩くのだ。鏡の前に立った私の脳内は、まだ出掛けてもいないのに既にキャパオーバーだった。


だからといって悠長にずっと頭を抱えている訳にもいかなくて。

待たせてるという焦りで最終的にはもう、一枚で完成するロング丈のワンピースに急いで頭を突っ込んでいた。

モカ色リブニットで、ストレートな縦シルエット。悩みに悩んだ癖に、無難に着地した。

そして、最終チェックで鏡と向き合った自分は、ついつい百瀬くんが触れた頭に視線がいってしまって。

危うくぽけっと惚けてしまいそうになったから、恥ずかしさを掻き消すように慌ててキャスケットを被った。


秋冬にぴったりなフェルト素材の黒色、コロンと丸いシルエットで一目惚れしたもの。



———それを今、隣を歩いていた百瀬くんにじっと見られている。私は、そんな百瀬くんの背後で、こちらを盗み見てくる人達が気になって仕方ない。


ガチガチに緊張しながらやって来たのは、徒歩圏内の大型ショッピングモール。食品も日用品も充実していて度々訪れる此処は、土曜日だからか人が多く騒がしい。


そして、百瀬くんへと集まる熱視線が凄かった。彼が歩くたび、人々がどよめく。すれ違うたびに、三度見される。若い女性やおばさま、カップル二人揃ってだったり、男子グループだって。

兎に角行き交う人々、老若男女問わず、彼を目にしては口をあんぐり開けたり息を呑んだり。声も出ない程に、静かに驚いていた。

何となく予想はしていたけれど、改めて彼の突出した美しさを肌で感じてしまう。

でも当の本人は周囲の視線も、自分の容姿もまるっきり気にも留めず。エレベーターの前で立ち止まった途端、綺麗な眉間に皺を刻んだ。


被り方、合ってるかって……


「え、変ですか?」


キャスケットの鍔を摘んで、思わず眉尻を垂らす。キャスケットの被り方なんて、一つしか知らない。