「あそこ〜ケイトくんね、おちこんでるのぉ〜」
「ケイトくん、おなかぺこぺこなんだよ!」
「……お腹ぺこぺこ?」
「そうなのぉ、きょうね、しーちゃんのごはんじゃなかったからだよぉ」
「しーちゃんおやすみなんだって〜あたしもかなしい〜!」
「しーちゃん???」
まだ舌足らずな二人の可愛いお話しに、頭の中ではてなマークが乱舞する。すると、座り込むケイトを差していたユイちゃんの小さな人差し指は、次に施設の一角へと流れた。
「しーちゃんはね、あそこにずうーっとすんでたんだよ」
指差したそこは、園庭が広く見渡せそうな位置。
大きな出窓がついた一室のようだった。
「だけどね、しーちゃん、さいきんね、でていっちゃったの」
「もしかしたら、しーちゃんのごはんたべれなくなるかもって、み〜んな、かなしんでるんだよ〜」
揃って眉をしゅんと垂らしたふたりの顔を見ていたら、つい手が伸びて、小さな頭をふわふわと撫でてしまった。
どうやら、“しーちゃん”とは、ここに住んでいて、皆んなのご飯を作っている人らしい。
施設の食堂の人かもしれない。出て行ったということは、辞めてしまった?という事なのだろうか。
どんな方なのか詳しくは分からないけれど、ユイちゃん、サヤちゃん、そして園庭のすみっこで小さく丸まっているケイトの姿だけでも、その人が子供達から慕われているのが分かる。
「……待ってて。ケイト、呼んでくる」
ふたりにできるだけ柔い笑みを向けてから、園庭のすみっこ、ちいさな背中へと駆け出す。
花壇に座り込んでいたケイトは、近づく私にすぐに気がついてくれた。ビー玉のような黒目がちな大きな瞳は潤んでいて、今にも雫がこぼれてしまいそうだ。
「スミちゃん…」
しょんぼりとした小さな声に、思わず眉が下がりながらもその可愛さに笑ってしまった。小さな身体に寄り添うように花壇に腰掛ける。
「……お腹、ぺこぺこなんだって?」
「う〜ん、ぺこぺこで、ぼくしぬかも……」
ぷるんとした唇を尖らせて、抱え込む膝をぎゅうとさせるケイト。同年代の子達よりも一際身体が小さくて、おっとり気弱な男の子だ。
午前の眩い光で、ケイトの黒髪に帯びる天使の輪がいっそうキラキラと輝かしい光沢を放っている。
「それは困ったな…」
その柔く細い髪を撫でれば、ケイトは抱え込む膝に口元を埋めた。
「……ぼくね、しーちゃんじゃないと、ほうれんそうも、にんじんも、たべられないの」
「……そっか」
これは相当に、落ち込んでいるようだ。
私は一人っ子だし、今まで子供と会話する機会なんてなかったから、なんて声を掛けてあげたらいいか分からない。
だから言葉の代わりに、暫く、ただ静かに垂れた頭を撫で続けた。



