焦がれる吐息





本来ならば、煙草を二本吸って、そして、ガツンと苦い珈琲を飲んでから出発するのが理想的なモーニングルーティーン。

今日のように、“或る場所”に向かう時は特にそうだった。ケンちゃんが誕生日にくれた全自動コーヒーマシンで作る一杯で、気合いを入れてから家を出る。

……のだけれども、百瀬くんと顔を合わせるのが気まずい。今すぐに家を出たい。

ルーティーンなんてガタガタにすっ飛ばして。彼が戻ってくる前にと、鞄とラフな上着を引っ掴んで急ぎ足で玄関へ向かう。


リビングを出る際に一度ベランダの方へと振り返ってみれば、白色のカーテンからほんのりと透けて、しゃがみ込む彼のシルエットが見えた。



「……大丈夫、かな」


まるで深く項垂れたようなその姿に、思わず心の声を落とした。

もしかして、体調が悪かったのだろうか。

だとしたら、百瀬くんが変だったのも頷ける。

ここ最近、家でゆっくり休む時間もなかったようだし、やっぱり働き詰めだったのかもしれない。


無意識に眉を垂らしながら、シューズボックスを開けた。

迷いなく薄汚れたスニーカーを手にして、珈琲の代わりに「ふう…」と深呼吸で気合いを入れてみる。

午前中のうちに帰ってくるつもりだったけれど、少し長居してこようか……

頭の中で予定を組み直しながらスニーカーを玄関に下ろせば、カチャ…と背後で音がする。 

リビングのドアが開かれた音だ。

そう分かってはいるけれど、振り向けなかった。彼にどんな表情を向ければいいのか分からなかったから。


それなのに、



———「もう行っちゃうんですか」


やっぱり百瀬くんは狡かった。気まずさなんて軽く蹴り飛ばすような、あざとい言い回し。

あっさりと振り向いてしまった私を、彼は誘惑的な妖しい瞳に閉じ込める。

唖然としている間に、長い足を迷いなく動かす百瀬くんは私と同じ煙草の香りを漂わせて。

鼓動も追いつかないほど、あっという間に目の前に立った。