𓂃◌𓈒𓐍
"おはようございます。片付けすみませんでした。絆創膏と薬、ありがとうございます。冷蔵庫に入ってるサンドイッチ、良かったら朝食に。いらなかったら捨ててください。 紫月"
癖のない綺麗な字は、百瀬くんらしい。字体さえも優しげで、柔らかな雰囲気を纏っているように見えてしまう。
彼の料理もそうだった。
だし巻き卵も、厚揚げとそぼろ餡の本格的なおつまみも、味見したメインの肉料理も、朝食のサンドイッチだって。
どれも丁寧で、心がほっとする味付けで、本当に美味しくて。優しさがそっと添えられているような、温かな料理だった。
まだよく知りもしないくせに、彼らしいな、なんて思ってしまった。
次、どんな顔をして会おうか。
そう一人でソワソワとしながら、もう五日経つ。料理を作ってもらった日から、百瀬くんとは顔を合わせていなかった。
別に、私が避けているわけではない。
単純に、彼とは生活リズムが合わなかった。
というより、百瀬くんは殆ど家にいない。早朝に出かけて、深夜遅くに帰ってくるのだ。それが五日続いている。
たぶん、仕事なのだと思う。百瀬くん用の洗濯籠の中に、調理場の人が着ている白いコックコートが入っているのがちらっと見えたから。
対して私は、大学4年の秋、単位をほぼ取り終えゼミと2コマの講義しかなく、毎日のんびりと朝起きていた。
午前に軽くジム、昼間にバイト。友人との予定もなかったこの五日間は、健全な生活リズムだった為に、百瀬くんとはすれ違いだった。
「…はあ…」と、意味のない溜め息を吐く。
化粧をしていた手は、いつの間にか止まっていた。
ドレッサーの椅子に腰掛けて、ただぼーっと彼が置いていったメモを見つめる。
私が書いたメモの返事のようにテーブルに置かれていたこれを目にした瞬間から、もう何度も、百瀬くんの綺麗な文字をなぞってしまっていた。
そのたびに飽きずにドキドキして、懲りずにソワソワしてる。



