焦がれる吐息





「……調理系の仕事、してるんですか?」


気恥ずかしい雰囲気を打ち消したくて、何の気なしに質問した。

手際の良さ、お店に出せそうな本格的な味、そしてまた、彼のスプーンを握る手に目がいって。

近くで見るとより分かる荒れた手に、どこかのキッチンで働いてるのだろうかと思い至った。明らかに、水仕事をしている人の手だったから。


どうして、さっきまで気づかなかったんだろう。

美しい容姿にばかり気を取られていた。


もう既に芸能人なんて言われても納得できてしまうような彼だけれど、まだデビュー前の一般人。

当然、スカウトされる前はどこかで生活をしていたわけで。年齢的に同じ学生で、バイトをしているのか。それとも社会人、フリーター…?

どこか浮世離れした百瀬くんは、現実的な生活がまったく想像つかなかった。



「……まあ、大した仕事じゃないですけど」


そう言って彼は静かに顔を背けて、またフライパンへと向かい合う。

まるで、これ以上は聞かれたくないと言っているようだった。急に、線を引かれたようだった。


翳りを帯びたその横顔は、初めて感じたときと同じ、脆さ、侘しさを感じる。


聞いてはいけないことだったのだろうか。

百瀬くんとの距離感が難しい。

無意識に眉尻を下げて、冷蔵庫からシンクへと身体の向きをかえる。


「……これ、洗っちゃいますね」


謎だらけの彼のことなんて、まだ何一つ掴めていない。

けれど、一つだけ確かなことができた。

きっと、百瀬くんは今まで一生懸命働いてきたんだろうな、と。

そうでなければ、そんなにも痛そうな荒れた手にはならない。

たぶん、彼は真面目な人だ。

一体、何回、洗い物を頑張ったらその手にたどり着くのだろう。

スポンジを手に、洗剤を垂らした。

モコモコと泡立てたそれに、どうしてか手荒れの一つもしてないのに私が痛みを感じてしまう。