「え、」
「タレです、肉の」
言添えた彼はそのままごく自然と、当たり前のように私の口に運ぼうとするから、咄嗟に顎を引いた。
「いや、じゃあ…」
自分で、と、極めて冷静を装いそのスプーンを受け取ろうとする。それなのに、私の手を躱すように、くっと更に唇に近づいたスプーンは、早く、と示唆するように急かしてくる。
飄々とした百瀬くんは、私の気持ちなんてお構いなしだった。
「焦げちゃうんで、」
彼の後ろには、ジューッと香ばしい音を鳴らす火がつけっぱなしのフライパン。
私のくちびるにじっと視線を落とす百瀬くんと、その焦げてしまいそうな音に追い詰められているようで、脳内はプチパニックを起こす。
考えて、迷って、躊躇って、そして。
「澄香さん」
「(……あーもうっ……、)」
伏し目になって、唇をちいさく解く。
不可抗力の羞恥に、微かに睫毛が震えた気がした。
でも、そんな恥ずかしさなんて、口腔内に優しく運ばれたその味と一緒に溶けるように消えてゆく。
自然と自分の目が丸くなっていくのが分かった。
「……おいしい」
微塵切りのネギが入っている、程よく酸味が効いた中華風のタレ。悔しいくらい、好みの味だった。
思わずこぼれ落ちた本音に、百瀬くんは嬉しそうに垂れ目を細める。
「ん、よかった」
優しげなその表情が、熾火のように私の心をじんわりと熱していく。こそばゆい、恥ずかしい。
それでも、嫌な気持ちはしなかった。
ほんと、悔しいくらいに。



