焦がれる吐息





…———トントントン、


軽やかな包丁の音が聞こえてくる。

全く集中できない音楽番組から、その心地よい音の方へと密やかに瞳を動かしてみれば、百瀬くんが手際よく料理をしていた。


カウンターキッチンだから、その姿はばっちりと見える。


真剣に俯くその顔は、睫毛の長さ、まっすぐ伸びる綺麗な鼻筋が際立っていた。

料理は嫌いじゃない、なんて言っていたけれど、迷いなく動く百瀬くんは間違いなく得意なんだと思う。

意外だなって思っていた気持ちは簡単に消えて、キッチンに立つ姿は、今はもう不思議なほどにしっくりときていた。


ソファーの下、ローテーブルとの間に三角座りをして、缶にくちびるを添えながら彼をぼんやり見つめていれば、不意に長い睫毛があがった。


ばちっと目が合ったその瞬間、可笑しなくらい鼓動が跳ねる。


「……飲みもの、おかわりですか?」


不思議そうに瞬きをして、ゆるく首を傾ける百瀬くん。


彼の動作は一つ一つ嫋やかで、やることなすこと全てが丁寧な印象を残す。

そして、彼が動くたび、喋るたび、いちいち私の胸がソワソワとしてしまうのはどうしてだろう。


「まあ……」なんて、視線を逸らした私の手の中、まだ缶は三分の一の重さを残してる。

思わず魅入ってた、なんて口が裂けても言えなくて静かに立ち上がった。