焦がれる吐息




再び、沈黙が降りる。

その静けさに余計に羞恥を煽られる。

じわっと、さらに耳朶までも熱をもった気がした。

自分で招いた気まずさに、睫毛を伏せてうるさい鼓動だけを感じていれば。


おもむろに、細く深い吐息が、さざ波のようにちいさく空気を伝う。張り詰めた胸の空気を溢すような、静かな溜め息だった。

見上げてみた先、美しい瞳にはもう私は映っていなかった。

百瀬くんは、顎元まできっちり閉められたマウンテンパーカーの襟を掴みながら、その中に口元を埋めて。顔を隠すように、そっぽ向いている。




「……風邪、引きますよ」



呟くようにして言われたその声は低かった。彼がいま、どんな感情を抱いているのか全然分からない。

視線は自分の胸元に流れ落ち、濡れた毛先を見つめながら「あ、はい…」と戸惑いの返事をするしかできなかった。


早く乾かそう……

缶ビール片手に彼のほう、リビングの出入り口へとそそくさと向かう。

視線を落としながら足を進めれば、彼が持つスーパーの袋が自然と目に入った。そこからは、長葱の青い部分がとび出ているのが見える。

意外だった。百瀬くんとミスマッチすぎて、ついその手に釘付けになってしまう。

キッチンでもどこでも、ご自由にどうぞとは伝えていた。けれどもまさか、彼が料理をするとは思わなかった。スーパーさえも、彼のイメージと上手く結びつかない。



スーパーと、百瀬くん……。


頭の中に不釣り合いな組み合わせを咲かせながら、ぺこっと会釈をして彼の横を通り過ぎた。


「っ、」



刹那、くいっと、右肘あたりのスウェットが引っ張られる。


最初に引っ張られたときと同じ位置、でも明らかに強くなったその感覚。


弾かれたように振り向けば、百瀬くんは私の肘を掴んだまま、そっとくちびるを開いた。