焦がれる吐息




そんなに冷蔵庫に夢中になっていたのか、玄関の音に全く気づかなかった。

入ってきた百瀬くんは、黒色のマウンテンパーカー、グレーのスウェットパンツのラフな格好。片手には、重そうなスーパーの袋を一つぶら下げている。


俯きながら入ってきた彼は、ゆっくりと私がいるキッチンのほうへと顔を上げて。


数時間ぶりに、グレーの瞳とぴったり重なる。



「………」

「………」


互いに無言のまま、彼は、ぱちぱち何度か瞬きを繰り返した。そして徐々に、美しい瞳が驚くように見開かれていく。

そのまま瞳を丸くさせた彼は、なぜか息を忘れたように立ち竦む。眉ひとつさえ動かないその姿は、非現実的な美しい彫像のようだった。

このまま吸い込まれてしまうのでは、そう錯覚してしまうくらいに彼の瞳に長いこと私が映る。


私がいることに驚いているのか、それとも、缶ビールなんて物を頬に当ててることに驚いたのか。

よく分からないけれど、彼にずっと見られていることにいい加減に心臓が耐えられなくなって。

おずおずと缶ビールをおろしながら、


「……おかえり、なさい…?」


気まずさに負けた唇からは、慣れない言葉が咄嗟にこぼれ落ちてしまった。けれど口にしてからすぐ、自分でなんだか小っ恥ずかしくなって視線を床に落とした。