焦がれる吐息





———結局、お風呂から上がっても、彼はまだ帰ってきていないようだった。

こっそりと覗いた玄関には靴もなく、彼の部屋となったドアの向こうからもやっぱり物音一つしない。


しーんと静まり返っている廊下に、ぺたぺたと素足の音だけを響かせた。

廊下のひんやりとした空気が気持ちいい。

シャワーだけにしようと思ってたのに、無心でお風呂を掃除して、かなり長いこと湯船に浸かってしまった。

あがる頃にはもう、くらっと眩暈がするほどにのぼせて、鏡に映る自分は分かりやすく頬が赤らんでいた。

慣れない分厚いスウェットが余計に暑苦しくて、髪を乾かすのも怠くて。

タオルを被って、そのままリビングへと向かう。

とにかく水分を求めて、真っ先に冷蔵庫を開けた。けれど、覗いた自分の片眉がぴくりと動く。

缶ビール、酎ハイ、水くらいでまともな食品が入ってない。大切に取っておいた生ハム、チーズの大好きなセットもなくなっている。


そういえば、と。

のぼせた頭にぽわんと浮かび上がってきたのは、昨晩、「お腹空いたわあ〜〜ん」と野太い声で冷蔵庫を漁っていた酔っ払いの姿だった。


「(……そろそろ、ケンちゃんキライ。)」


わしゃわしゃと乱暴に髪を拭きながら、缶ビールを手にする。


自分の部屋で呑もうと、火照る頬にひんやり冷たい缶を当てながら冷蔵庫を閉めたときだった。

カチャ、とリビングのドアが開かれた音がして、反射的に振り向いてすぐに、瞬時に固まってしまう。