「……何それ」
彼はそれだけを呟き、言葉を詰まらせたように桜唇を引き結ぶ。
そしておもむろに、ふわりと金の髪が揺れる。
「(え、ええ?!)」
彼女の頬に添えられた彼の指先は、首の後ろに滑り込み。まるで口付けをするように更にぐっと美しい顔が寄せ合う。
どっ!と勘違いな心臓が騒がしくなったその時、彼の妖美な唇は彼女の耳に寄せられた。
耳打ちされた彼女の可憐な睫毛はぱちぱちと慌てたように瞬き、すぐに頬は赤らみを増す。
もちろん彼が何と言ったのかは聞こえなくて、けれど、それがもどかしくもどれほど彼女を愛してるのか伝わってきてしまった。
「な、に言って…!」
「もう早く帰りましょう」
跳ねるように離れる彼女に妖美に笑いかけた彼は、逃すまいと彼女の手を捕まえ恋人繋ぎをする。
恥ずかしそうに伏目になる彼女を見つめる彼。
その横顔があまりにも幸せそうで、綺麗で、何故だか目頭がかあっと熱くなる。
急かすように背を向けあっという間に歩き出す、モデル顔負けスタイル抜群の二人。
降り続ける儚げな白い粒に包まれながら、肩を寄せ合うその背中は二人だけの世界へと消えてゆく。
その美しさを見えなくなるまで見届けて、独り、溜め息をこぼした。
きっと、この先も忘れる事のないふたり。
彼と彼女にしか分からない美しい世界で、ずっとずっと幸せであってほしいと、恋心なんてとうに忘れて部外者ながらにただ強く祈ってしまった。



