焦がれる吐息





「なんでって…」


困ったように言葉を詰まらせた彼は、言葉にならない思いをのせたように指先を動かす。

傘の柄を握るその手をグッと引き寄せ、二人の距離が縮まる。

空いた片手は彼女のちいさな顔へ。

しなやかな指の背で、ほんのり薄紅に染まるほっぺを一撫でした。

側から見ても伝わる、とてもやさしいタッチ。

まるで冷たくなった頬を労るように、とても愛おしむように。


「……怖くなかったですか?」


落ち着きを取り戻すように紡がれた彼の声もまた、とても優しかった。

困ったように眉尻を下げ、白の世界で輝き浮く青い瞳はやっぱり彼女だけを大切そうに閉じ込める。

はら、はら、白い粒がのってしまいそうなほどに長い彼女の睫毛は儚げに伏せられ揺れる。

けれどそれはほんの一瞬だった。


「………紫月くんのこと考えてたら、全然」


再び彼を真っ直ぐに映す彼女の三白眼は、更に輝きを増す。

きっとそれは、ネオンのせいでも、粉雪のせいでもない。



「……早く会いたいなって、もどかしくて。これから会えるんだって、うれしくて。怖いって思う暇、なかったから」



彼女の空いた片手は、頬に触れる彼の手に重なる。

それもまた、優しい仕草だった。

温めるように、包み込むようにして彼の指先がきゅっと握り締められる。



「いまの私の夜は、紫月くんのせいで忙しいよ」


困ったように、穏やかに目尻を下げた彼女の飾らない笑みは一際艶やかだった。