板長が受け取った紙袋からは、折り畳み傘の柄が少しはみ出て見えた。
裏、仕込み、その二つのワードで誰に宛てた物なのか、伊達に通い詰めていたわけじゃない私は途端に喉が引き攣って誤魔化すように二口目を運ぶ。
なんだか、さっきよりもしょっぱい。
「………あーやっぱり、この子だ」
美女と板長がやり取りしている最中、カウンター下でいそいそとスマホを操作していた友人は「ほら」と画面を見せてきた。
そこに映るのは、数ヶ月前にSNSを騒がせた一枚の写真。某大手芸能事務所のイベントにて隠し撮りされたそれは、男女が向かい合う場面だ。
遠目を拡大し、画質の荒い横顔だけれど———
「本当は駄目だろうけど、眼福すぎて御利益ありそうだから思わずスクショしちゃったのよね。#謎の超絶美男美女カップル爆誕って、流れてきたやつ」
「………」
———ああ、なんで気が付かなかったのだろう。
ありきたりな毎日、ベットの中でいつものようにSNS徘徊をしていた時。ふと出会ったこの一枚に、一瞬にして夢見心地になったのに。
スクロールしていた指はぴたりと止まり、「(うわ、いいな〜)」なんて正体不明の美男美女に勝手に憧れを抱いたのに。
映るのは、今まさに直ぐそこにいるお姉さんそっくりのスタイル良い女性。
そしてその完璧な横顔が見上げる先は、金色の髪、すらりと高い背、異次元の人体比率なスーツ姿。
その男性の横顔と、私に雷を落とした美しい彼の電話している横顔がぴったりと重なって。
3口目は、味がしなかった。
急に丸まった私の背中を、友人は無言でただぽんぽんと労うように2回叩く。
それが私の頭の中の読みを断定しているようで、山葵なんて食べていないのに鼻の頭がツンとした。
私がちびちびと彼の新作を食べる間に、美女は熱燗片手に終始無言で幾つかの料理を食べ「……ご馳走様でした」と早々と席を立つ。
本当に邪魔をする気がないようだ。
彼女は食べ方さえ美しく、サワラの煮付けを食べている姿なんて前後を忘れて見惚れてしまったくらいだった。
せめて食べ方が汚いとか、箸の持ち方が下手だとか。
欠点の一つでもあれば良かったのに。
悪口を言えたら、少しはこの胸に抱えている気持ちが消化できたかもしれないのに。



