焦がれる吐息




「………モデルさんだよね、きっと」

「………う、うん、多分、いや絶対そうだよ」


女性が板長に「いつものでお願いします」と淡々とお願いしてるのを見届けてから、漸く私たちは耳打ちで始動する。

消音に近い極小の声で。



「……常連さんかな。雑誌に出てたりするのかしら」

「それならどちゃくそドタイプなので是非購入して自宅でもお姉さんの顔を拝みたいのだが。大人っぽいけど幾つだろ」

「年下でしょ。肌質がもはや違うもん」

「だよね〜顔ちっさ。私の拳くらいしかないよ、ほら」


美女がおしぼりで手を拭いてる姿を横目でちらちら観察しながら、友人へと差し出した拳に握るスプーンをやっと口に運ぶ。彼の新作、一口目。


「、おいし!」
 

そのとき思わず、時と場を弁えずに声をあげてしまえば、美女の可憐な睫毛がぱちりと上がる。

妖美な瞳と合う。すると彼女は、その一瞬、涼しげな瞳を柔らかに細め。色っぽい唇の端を小さく上げて、どことなく嬉しそうな表情をした。

瞬間、また、だ。ギュン!だか、ギュイン!だか、恋愛対象男性のはずの私の心臓がトキメキの音を立ててしまった。


「(………ひゃーかわいすぎ)」


ぽっと頬を赤らめた時には、彼女の視線は既に移る。

自分の手元にやってきた出汁巻き卵を見て、嬉しそうな口角はそのままに「いただきます」と一人小さく紡ぎながら両手を合わせる。


「………そろそろ呼んできましょうか?今、裏で仕込みやってますよ。」



黙々と食べ始める彼女を見て、板長が静かに声を掛けた。彼女はすんと表情を無に戻し、紙袋を下から取り出す。



「いえ、邪魔しにきたわけではないので。これだけ渡してもらえると助かります。外、降ってきたので」