焦がれる吐息





「———私なんかが烏滸がましいし。別に、邪魔をしたいわけじゃないから」

「そういう割にストーカーっぽい事してるけどね」

「ゔ」

心の中と裏腹な事を黄昏風に呟いた私に、友人はお猪口片手に横からさらりと左フックを打ち噛ましてきた。

言葉も出なく項垂れる。

まさにその通りだ。

彼に恋してからというもののこの店に頻繁に通い、その後一服だと言い訳を唱え意図的に店裏に足を運んでいる。

彼に会えた3回のうちの2回というのは、運良くゴミ捨ての際の彼をこそこそと盗み見れたの2回。

でも、そうでもしないと彼に会えなかった。

板長曰く、彼は接客に不向きで裏方に徹してもらっているとの事だから。

まあ、その判断には大賛成だけれど。

だって、彼がカウンターにでも立ってしまった日には、食事どころではなくなってしまう。女性客が殺到して老舗日本料理店が推し活の場となってしまうだろう。

現に私がそうだもん。

ライバルがこれ以上増えないように、彼にはそのまま裏にいてもらって。そして常連になった私は、彼の料理を堪能して陰ながら応援して。

そしてそして、ゴミ捨ての時は勇気が出なくて声を掛けられなかったから、次こそ会えた時には———



「———こんばんは」


それは、上品な漆スプーンを持ち、板長にお勧めして頂いた新弟子作“生雲丹の玉地蒸し”を口に運ぼうとした時だった。

横からの呆れた視線に気づかないふりをして、頭の中は彼一色。

烏滸がましいことを、浮かべている最中に。


「すみません。予約してないんですけど、空いてますか」


しっとりとした女性の声が真後ろから耳に入る。