焦がれる吐息





「なんでよ?」と眉間に皺を寄せる友人に「だって…」と口籠もりながらも浮かんでしまうのは、この世のものとは思えないほどに麗しい人だった。


彼と会ったのはたったの三回。会った、というよりも一方的にこっそり見ていた、のほうが正しいけれど。

彼との運命的な出逢い、一目惚れという名の雷に打たれてしまったのは、仕事の接待で初めてこの店を訪れた日の事だった———


『本日はよろしくお願いいたします…!』

『ああ、ここ有名なところだよね。よく予約取れたね』

『は、はい!ありがとうございます!』

『はは、相変わらずかたいなー君』

その日は正直、苦手なお客様との食事でガチガチに緊張しながら入店した。

しかし、料理が運ばれ箸を持ち、一口目でそれは嘘のように和らいだのだ。

まず先付三種が本当に美味しくて感動もので、相手もご機嫌、会話もおかげさまで急に弾み、その後の食も酒も和やかにハイペースで進んでしまった。

帰り際にこっそり板長にお礼を伝えれば、驚いたことに、私が最も感動した先付けは最近入った新弟子が考案したものだと。

『(え〜センスある〜!期待の新人様ありがとう!)』

無事、今後の取り引きも安泰!顔も知らない新弟子さんに心の中で感謝をしながら、すっかり上機嫌なお客様を店前でタクシーに乗せてお見送り。

こちらもスキップでもしそうな勢いで帰宅。

いや、その前に上司に報告の電話も兼ねて勝利の一服ができるところはないかと、店の周りをキョロキョロと散策した。

近頃、喫煙所がめっきり減って喫煙者にとっては非常に不便だし肩身が狭い。

いくら電子タバコだからといって、品のある老舗店の前では堂々と吸えないよな〜と店の裏側の路地、ゴミ捨て場のような場所に辿り着いた時だった。


『———すみません、起こしちゃいました?』