焦がれる吐息



都心の一等地、煌びやかなオフィス街の大通りから一本入った閑静な通りで、真っ白な暖簾が一つ嫋やかに揺れる。

木の格子状の厳格な入口を潜ったそこは、長年に渡り愛し敬われている老舗日本料理店だった。

飾らない品が漂う店内はカウンター7席と、個室が幾つか。

街中の喧騒も忙しなさも一瞬で忘れてしまうような静謐な空気は、何度訪れても背筋が伸びていた、はずなのに……。


「で?あんたの一目惚れした王子様とやらはいつ来るの?裏からはなかなか出てこないんだっけ?」

「ちょ、っ!?板長に聞こえるからやめよ?!」

「いや板長にだってもうバレてるからいいじゃん?こんな高級店に週一で足繁く通ってたらさ」

「ゔ、ま、そうだけど…お願いだから静かにしてよ〜」


今日は連れてくる人選をミスったか。

カウンター席にて、ちょうど板長が反対側のお客さんと話しているのをいい事に、人の秘密話で洗練された空気をぶち壊そうとしてくる友人に涙目、人差し指を必死に立てる。

本日は月曜日の夜、以前は明日も仕事だから早々と帰宅したくなる曜日だったけれど、この店が華金や休日は予約が取れないおかげで平日に呑みに行くことが多くなってしまった。


それに、


「ねえ、月曜日は基本出勤してるんでしょ?」

「う、うん、板長に聞いたから確かだよ」

「ほら、もう完全バレてるじゃん」

「……で、ですよね…」


肘でぐいぐい茶化してくる友人に、かあっと頬が熱くなって居心地の悪さに手元にあったお猪口をぐびっと煽る。

27歳、独身女が年甲斐もない。だけど、そう、雷に打たれたように一目惚れしてしまったのだから仕方がない。

この店の新入りだという青年、とんでもない美しい彼に。



「もう板長に連れてきてもらえば?あたしも早く見たいんだけど、噂の美青年」

「いやいやいやそれだけはぜっったいダメ!」