𓂃◌𓈒𓐍
もう、声すらも出なかった。
息をするのに精一杯だった。
「……喉、大丈夫ですか?」
艶気を含んだ声が、優しく耳を撫でる。
返事をしようにも声も出ず、首を動かしてみたけれど少しの力も入らなくてちゃんと頷けたか分からない。
いま何時なのか、確か、玄関、脱衣所、お風呂、リビングを経由し、一体何回目からベットに来たのかさえも、もうずっと分からない。
肌と肌との密着が酷く心地良くて、与えられる刺激がただ気持ち良くて、もうずっとこのまま溺れ続けていたいと。自分の理性なんてズブズブに乱され溶かされてしまうくらいに、彼にどっぷりと堕とされていた。
すると、優しい指先が後頭部に差し込まれ、ゆったりと上体が起きていく。
そっと唇が重なる、その隙間から冷たいものが流れ込んできて自然と喉を動かした。
けれどその美味しさはすぐに離れていってしまうから、無意識のうちに「(もっと)」と手を伸ばす。
僅かに瞼を開いたそこで、彼が優しげに笑った。
垂れる前髪を搔き上げ、ペットボトルの水を一口含む。
程よく鍛えられた上半身、なめらかな白い素肌を露わに、ヘッドライトの薄明を浴びる彼は猛烈な色香が漂う。
彼の一つ一つの動きにぼんやりと見惚れているうちに、濡れた薄い唇が再び落とされた。
潤いが丁寧に注ぎこまれ、恥ずかしがる余裕も奪われたいま、素直に喉を動かした。
このとき既に、酔いは冷めていたと思う。
ままならない思考回路の原因は、長時間の烈しい快楽によって彼に甘く侵されているという理由に変わっていただけ。
それを、彼は知ってか知らずか。
「……今から言うことも、朝になったら忘れててほしいんですけど」
徐に、離れた唇からは婀娜めいた声が落とされ、こめかみに程よく冷たい指先が触れる。
「澄香さん、夜に一人で外に出られるようになりましたよね」
紫月くんは、親指の腹で私の頬骨を擽ぐり、優しげに目を細めていた。
でも、私を見下ろす青の瞳は揺らめき、どうしてか切なげに見える。
「本当は喜んであげなきゃいけないのに、俺がどれだけ最低な事を思ってるか知ってますか?」
そして、吐息のような艶やかな笑みが胸の中心を突く。



