言葉にしてから漸く、自分の目頭が熱いのに気がついた。嗚呼なんだか、途端に泣きそうだ。
だって、いま彼はどれだけ頑張ってくれたのか。どれほどの気持ちを抱えて“女”の前で口を開いてくれたのか。
“眼差しとか、甘ったるい匂いとか、特有の身体つきとか。苦手とか嫌い以前に、無理なんです。女性っていう生き物が。”
久しぶりに蘇る痛み。
氷のような温度に触れ、青白い顔を前にして、濡れる瞳を見つめて、彼への想いを言葉にしてみて。
ぐわぁっと急激に熱いものが込み上げてくるから、気を抜けば震えてしまいそうな唇で必死に笑みを携えた。
駄目だ、酒のせいで平常運転ができない。
オラオラモードだったはずなのに感情がぐちゃぐちゃでかなりの情緒不安定だ。
「……アンタ急にな、」
ぐっ!と強い力に引き寄せられたのは化け猫の言葉の途中だったような気がした。
目を見開いた時にはもう、彼に引っ張られる形で前へ進み出している。景色が次々と流れてゆく。
「紫月くん、」
ガサガサ互いのビニールが荒く揺れるのは分かる。
それでも彼は、振り向いてくれない。
「ね、紫月くん、」
不安になってもう一度呼んでみたのは、息を切らしながら辿り着いた部屋の前だった。
小走りしたせいで元々不能だった脳みそが更にフワフワし始める。
黙ったままお揃いのダウンのポケットから鍵を出す背中をただぼんやり見上げている、そのうちに。
「しづきく、っ」
ぐるんと視界がまわる。
バン!と大きな音が後ろで響く。
「んっ、!」
———何が起きたのか、
状況を把握するよりも前に、吐息まるごと奪われるように唇が喰まれる。熱く、深く、溺れ死にそうなほどに。



