真横の壁を殴り付けた拳をそのままに、早口で地に吐き捨てられた冷酷な言葉。
その言葉通り、徹底的に顔を上げないでいる紫月くんの背中を瞳に、喉が痛く熱く絞られる。
側から見たら異常で狂った言葉なのに、胸がときめいて仕方がないのだから私も異常かもしれない。
それでも、
「紫月くん」
私の声に、生き返ったようにすぐに反応してくれて。
振り返り私に気づいた瞬間、色づく美しい瞳。
眉を寄せ、濡れたような青を揺らし感情を露わに。
「澄香さん」と一瞬戸惑い、それでも安堵したように美しい桜唇を僅かに綻ばせる。
そんな彼が、愛おしくて、大切でたまらない。
思わずゆったりと笑みを口角に、化け猫を見据えながら歩みを進める。
散々うるさかった唇はポカンと開けっ放しに、何度も瞬きだけを繰り返すその阿保面に態とらしく小首を傾げた。
「私の大切な彼に、何か?」
目前にきた彼の、絶対痛かったであろう大切な左拳に手を伸ばしそっと触れる。
いつも以上に冷た過ぎるその感覚に一瞬唇をむっとさせながら、温めるように包みこむ。
「たかが隣人ごときに教えるのは可笑しいかもしれないけど、一応言っておきますね」
淡々と女に宛てるも、顔を上げた先、もう彼だけしか見えない。
「私も、彼のことしか触れないし、見たくないし、」
繋いだ手に力を込め、彼の手の甲を親指の腹でできるだけやさしく一撫で。
見つめた先で、ふわりと笑った。
「紫月くんのことしか愛せない」



