焦がれる吐息






静謐な世界を乱すように廊下に響き渡ったのは馬鹿でかい甘ったるい声だった。

「こうしてすれ違うの初めてですよね?!うわ〜今日めっちゃツイてる〜」

それは彼の向こう側、私達の部屋がある方向から現れたのは同世代のド派手な女。

……誰だ……、ぴたりと足は止まり、突然やってきた嵐に眉間に皺が寄る。

そうして遅れて頭に浮かんだのは、早朝のゴミ出しの際に一瞬だけすれ違う女だった。

そうだ、恐らく隣人だ。

不確かなのは、私が把握しているすっぴんスウェットの姿とは上手く結びつかないほどに雰囲気も顔面も違うから。

私に向ける「おはようございま〜す」の気怠げな低い声とも全然違う。



「あ、いや実はたま〜に見かけたことあったんですけど〜彼女さんと一緒だったからなかなか声掛けられなくてえ〜」



うねうね声にはっとする。

止まっていた足をすぐに動かして、30メートルほどは離れている二人に近づく。


「(どんだけ声でかいの、てか声掛けんな。)」


折角心地良かった心は荒波オラオラモードへとギアチェンジ。ぐわんぐわん酔いは回っていても、本能で“彼を助けねば”という指令がドスドスと足を急かす。