焦がれる吐息




どう切り出そうか、密室の宙をぼんやり見つめながらも延々と彼を思い浮かべる。

そうすれば、そんな事よりも何よりも、ただ無性に彼に会いたくなってくる。

酒って厄介だ。

難しい事を考えるのを簡単に放棄して、何故だか呆れるほどの恋しさだけを膨らませてしまうのだから。


「(帰ってきたら、まずは、)」


毎日会っているのに、毎日触れているのに。

どれだけ同じ時間を重ねても、変わらず宝物のように抱き締めてくれる彼を思い出して、ビニール袋の持ち手を握り直す。



「(………偶には、自分からしてみようか、)」


アルコールに呑まれた不能な思考回路に、正常だったら絶対にあり得ない冗談が勝手に浮かんできて頬をほんのり火照らせる。

胸の内がぽやぽやして浮ついて堪らなくて、新調したダウンの襟に口元を埋めて到着したエレベーターを降り立つ。

———と、真っ先に。

覚束無い視界の遠くさきで、金の髪が眩しく揺れる。


今まさに抱き締めたいと、熱く焦がれていた広い背中を見つける。


先日成り行きでお揃いで買ってしまったグレイッシュベージュのダウンジャケットに、ワイドなヴィンテージデニム。

無造作な金の髪を揺らしながら先を行くラフな後ろ姿は、相変わらずモデルのような頭身。

そこで片手に揺れるのは、これもまた私と同じ乳白色のビニール袋。

そんな彼を見つけた瞬間、埋めた口元は分かりやすく緩んでいた。


最早反射的に、とんっ、と地面を蹴り、

「…し、」

驚くほどに足早に遠のいていく彼を、酔い任せでちゃんと呼び止めようとして。

けれど、直ぐにそれは阻まれた。



「あ!わー!お隣さんだあ〜!こんばんわ〜!」