焦がれる吐息






ふわり、ふわり。

固いはずの地面を真綿のように踏み歩きながら、片手に下げたビニール袋をぶらんぶらん揺らす。

不意に夜空を見上げてみても不思議なほどに心は穏やかだった。

百瀬くん、……改め、紫月くんと付き合って早三ヶ月。

日が暮れ始めてからでもマンション下のコンビニくらいは一人で行けるようになった。


「(我ながら大いなる進歩。)」


触れる外気は冷え込み、吐く息は白いのに、身も心もほくほくと温かな心地良さを感じながらエントランスをのんびり潜る。

只今、頗る気分が良い。

何故なら良い感じに酔っ払っているからだ。

明日の予定がない事を良いことに、久しぶりに一人で家呑みを楽しんでしまった。

買い置きを忘れていて1本しかなかった缶ビールは水のようにあっという間に消えて。物足りなさに彼に何故か禁止されていたワインに手を出すも、気がついた時にはもうそのボトル丸々一本も空っぽになっていた。


「(二次会〜二次会〜)」


適当に買い物かごに突っ込んでいた追加の酒達に心躍らせながらエレベーターの階数ランプを仰ぐ。

もうすぐ彼が帰宅する時間。

だから、ちょっと外に出てみたのもある、なんてそんな恥ずかしい思惑はアルコールの力をかりたって言えないけれど。


「(……今夜こそは、“あれ”を言う。絶対。)」

ここ最近、ずっと悩ませている“あれ”を、今日こそ彼に伝える、大丈夫、今なら何だってできちゃいそうだし…!

と、ふわふわとする馬鹿になった脳みそで、らしくもない意気込みをしながらエレベーターに乗り込んだ。