焦がれる吐息





「……百瀬くん、誰か来たら、」

「すみません、声小さくてよく聞こえない」

「っ、聞こえてるでしょ、」

「ん?」

「や、なんか擽ったい」

「澄香さん、耳弱いですよね」

「ふっ、ちょ、っと」


百瀬くんは耳輪に触れるか触れないかのこそばゆい距離で甘く囁き続ける。煽情的なその擽ったさは、下腹部の辺りに疼くような焦ったい熱をうむ。

誰か来たらどうしようという焦燥感も後押しして、羞恥心が燃える。


無意味にも隠れるように俯いて、彼の腕をぎゅっと掴んだ。


「……百瀬くんって周りの目のとか気にならないんですか」

「澄香さんのことしか眼中にないんで」

「っ、ねえ、やっぱり聞こえてるじゃないですか」

「聞こえない」

「、もうっ」


いよいよ限界で勢いよく振り向いたその瞬間、そっと、触れるだけのキスが落とされる。


「静かにってば」


ほんの一瞬、唇が僅かに離れたその先で、百瀬くんは妖艶に笑ったような気がした。至近距離すぎて確かではない。

瞠目している隙に、彼は流れるように私の手首を捕まえる。

とん、と背中に本棚が軽く当たる。


「ももせく、」

呼ぼうとしたか細い声は、もう一度やさしく重ねられた柔らかな唇の中に消えた。