いつも自分がダラダラと潜る門に彼が立っている所を想像してみて、それはあまりにも非現実的だからすぐに想像することをやめた。
百瀬くんは今日も仕事だろうし、休みであったとしてもきっと真面目な彼のことだから勉強に勤しむだろう。
「(いい加減、図書館行って卒論進めよう、)」
今日はもう講義もない、バイトも入っていない、時間が有り余る事が以前の自分だったら嬉しかった。
ジムに行こうか、ショッピングしようか、昼飲みでもしてしまおうかと心が弾んでいた。
はずなのに、どうしてか今日は全然嬉しくない。
眠いはずなのに寝たくもないし、ただ、心が枯れているような。気を抜けば眉尻が自然と下がっているし、気づいた時には唇をむっと引き結んでいる気がする。
「はあ……」
溜め息だって、何度も吐いている。重いその吐息を落としながら立ち上がり、ずっとテーブルに放置しているスマホを鞄に突っ込む。
画面は大学にきた時からずっと真っ暗。
いつもの如く充電をし忘れて来てしまったのだ。
昨日はいつも以上に帰宅が遅い彼の待ち時間と比例して、ついついビールの量も増えてしまった。
ソファーで寝てしまったはずだけれど、朝起きたらベットにいた。また百瀬くんが運んでくれたのだろうけど、それを確かめることも、お詫びすることも、いつになるだろうか。
次はいつ、まともに彼に会えるだろう、
「ね、やばくない?絶対あの人、芸能人だよね」
「だよね?!私めっちゃガン見しちゃったんだけど。誰だろう?顔全然見えなかった」
ラウンジを出てすぐ、耳にしたばかりの同じような会話が通り過ぎて思わず振り返る。
その後ろ姿はさっきの二人組ではない。でも同じように色めきたっている声に心臓が騒ぎはじめる。
いや、でもまさか、その言葉で平静を取り戻そうにも、歩けば歩くほど至る方面からそれは次々と耳に流れ込んでくる。
カツカツカツと、鳴らす自身の靴音は無意識のうちに速くなる。———そして、
「髪、金色じゃなかった?」
「ね!あたしの推しと一緒!背丈も!」
「やば!ほんとに推しだったらどうするん?!」
バックをぎゅっと抱え直して、素直な足は正門へと駆け出していた。



