焦がれる吐息






「(……ねむ)」


大学構内ラウンジにて、窓際を一人で陣取り、イチョウ並木が色づくプロムナードを眺めながら欠伸を噛み殺す。


寝不足だ。理由は簡単、人生初めての彼氏と一緒に暮らしているからだ。

同じ空間に人間離れした美しい人、しかもその人が自分と両想いという意識に意識を重ねて超意識している生活にもうずっと脳内が休まらなくて毎晩寝つきが悪い。

……なんて、実際、彼と無事想いが通じ合えたあの日からあまり会えていないのだけれど。

百瀬くんは仕事を掛け持ちし初めて益々忙しくなってしまった。

新しい仕事の調理場は頑固だけど気前のいい男性の料理長、お弟子さん二人も男性でとても働きやすいと言っていた。

加えて調理師免許の勉強も施設の仕事をこなしながらやっているらしく、やっぱり帰宅は深夜。


その帰宅をこっそり待っているから寝不足なのが実の理由だ、とは彼には言えない。

百瀬くんにはきっと待っている事はばれていないと思う。たまたまトイレで起きた、喉が乾いて起きた、深夜ドラマ観てて起きてます———なんて。うん、たぶんバレてない。バレたら大変だ。

流石に彼氏の帰宅を深夜まで待ってる彼女って、きっと重い。




「ねえさっきここ来る前さ、正門に芸能人らしき人いたんだけど」

「はあ?げいのーじんって誰よ」

「いや変装?てか帽子深く被っててよく顔見えなかったんだけど、スタイルが尋常じゃなくて。あれ絶対、一般人じゃないとおもう。間違いない」

「なにそれ、ほんとかよ〜」

「いやまじだから!あんたも吃驚するって!ぜっったいイケメン!オーラっていうの?あー伝えらんない!あ、見に行く??」

「いや、これからゼミじゃん」




意思に関係なく真後ろに座っている女子二人組の会話が自然と耳に入ってきて、頬杖をついたままこっそり唇を窄める。


「(……いや、ないない。百瀬くんなわけない)」