焦がれる吐息





彼女は驚いたように睫毛を瞬かせて、でも直ぐに眉を寄せて厳しい表情を彼に向ける。


「……百瀬くん、新しい仕事は?」

「休憩中です。澄香さんに会いたくなったのでちょっと寄りました」

「、…休憩なんだからちゃんと休まないと。いつか疲労で倒れますよ」


ツンと言い放つ彼女は一見冷めて見える、でもまあ、長年の付き合いから言わせてみれば、彼に会えた嬉しさを必死にひた隠しているのだ。

その証拠に、彼女の粉雪のように真っ白な頬はほんのり淡紅に色づいていた。

背中を向けた彼の顔は見えない。

けれどきっと、彼もちゃんと分かっている。

とても愛おしむように彼女を底深い青色の瞳に閉じ込めているのだろう。


———だって、

「いや、休まなくて良かったです。ちゃんと言ってなかったなって気づけたんで」

「え?」

「俺は相当、嫉妬深いって。冗談でも浮気は駄目ですよ」


彼は小さな王子様の頭にのっていた彼女の手をやさしく攫い、自分の方へと引き寄せた。

まるで彼女しか瞳に映らないとでもいうように人目を憚らず、滑らかな濃紺の髪を1束掬い、妖艶な唇に近づける。

そっと口付けを落とすと、彼女にやさしく微笑んだのか、もしくは艶美に笑いかけたのか、どちらにせよ彼女の頬は更に紅潮していた。



「スミちゃん花丸達成ね!お赤飯炊くわよお!」

「うお、ケンちゃんが突撃したぞ〜続け続け!」

「スミちゃん〜しーちゃ〜ん!」

「むかつくイケメン金髪ぅ〜スミ先輩泣かしたらはっ倒すからぁあ!」


一緒に隠れていた小さな子供達と尾崎ちゃんを引き連れて突進すれば、呆れた彼女は溜め息を吐いていた。

これから先も、彼と彼女のまわりには溜め息が降り積もる。



愛たっぷりの、幸せな溜め息がね。




「しーちゃんずるい〜スミちゃんはぼくのおよめさんになるの〜」

「ごめん、それだけは譲れない。スミちゃんは俺の彼女でいずれ俺のお嫁さん。」

「ちょ、百瀬くん??およめさんって…?(というかスミちゃん呼び無駄に心臓に悪いっ…)」


小さな王子様と妖艶な王子様に挟まれたじろぐ彼女を見つめ、はぁああ〜んとアタシもつい溜め息が溢れてしまった。

あまりにも胸が幸せでいっぱいだったから。